現役ファンドマネージャーの徒然帳

現役債券ファンドマネージャーの気まぐれブログ

日銀の審議委員と博士号

こんばんは。
今日の債券市場の注目は、日銀総裁の会見だろうと、昼のブログで呟いたが、その後、後場が始まって早々に、日銀に関する全く新しいニュースが入ってきた。

jp.reuters.com

専修大の野口旭教授が新しい日銀の審議委員として推薦されたようだ。
3月に退任する桜井審議委員の後任である。


桜井審議委員の名前を聞いて思い出すのが、博士課程云々の学歴詐称問題。同時期に話題になったショーンKのことも相まって、話題になった感じはある。博士論文の審査に通ってないのに博士課程修了と表記するのはは明らかな誇張だし、就活でやったら、内定取り消しもんだから、非難されるのはしょうがない。ただ、この問題で桜井審議委員の能力そのものが否定されるような世論になったのには疑問に思うところである。
(それよりも修士論文4枚と言うのが驚きなんだが。。表紙、アブスト、目次、レファレンス。。のみ。。なのか。。ほんぶん。本文はどこいった!!)


さて、そんな日銀を騒がせた博士号だが、現在、政策委員会メンバー9人の中に「博士号」を名乗れる人は1人としていない。審議委員の条件として、博士号の取得が必要条件とはなっていないから、制度的に問題はない。しかし、米国において日銀の審議委員に相当するFOMCのボードメンバーの経歴を見ると、経済学以外の博士号も含め、15人中13人が博士号取得者である。


さすが、さすが米国である。しかし、この差は何だ。。


しかたない、日本は博士後進国である。博士取得者に対するリスペクトが欠けている社会構造だし、博士号取得後の働き口は少ない。これじゃあ、誰も取りたがらないわけである。


ただこれは明らかな損失である。特に、中銀のようなアカデミックと実務を行き来するような業務においては、知識はあるだけプラスである。
どうせ審議委員は企画局の上げてくる政策検討するだけでしょ、と仰るかもしれないが、審議委員には下にスタッフがつくわけで、彼らは「超」がつくほど優秀である。日銀にプロパーで入ったスタッフ達はその半数以上が欧米のトップスクールで修士号、人数は多くないが、取れるものなら博士号まで取るのである(博士はオックスフォード大で取る人が多い印象)。そんな彼らが持ってくる政策や経済学の話を理解するためには、そら相当な頭脳と前提知識が必要である。仕事上、彼らと交流することが稀にあるのだが、まあ漏れなくスマートでクレバーな人たちである。
そうした点を踏まえると、スタッフの努力を無駄にしないためにも、彼らと円滑で十分なコミュニケーションの取れる人材が必要である。


もう一つ、特に総裁クラスに博士号を持つ著名な経済学者を採用するメリットがあるとすれば、それは日銀の信頼性向上に寄与する可能性があることだろう。


日銀のせいかは置いておいて、日本のインフレ率が目標の2%に到達すると考えている人なんてごくわずかだろうし、日銀が何やっても無駄と思われている節は大いにあるだろう。
こうした日銀の信頼が低下した状況においては、総裁を含めた審議委員に有能な経済学者を持ってくることはかなりインパクトが出てくると思うのである。例えば、林文夫や伊藤隆敏、清滝信宏などなど、私ごときが思いつくだけでも5、6人は出てくる(知名度は落ちるが、FRBから東大経済学研究科に移籍した仲田教授は実務、アカデミックともに経験豊富で適任者だと思う)。
こうした人たちは、日本はもとより、世界に通用する人たちなので、彼らが発言すると皆があの人が言ったことだから、となる。頭ごなしに信用するのは良くないけど、そんじょそこらの、まともな論文も書かず政権に媚び売る本しか書いていないような教授やエコノミストが審議委員になるよりは、随分マシである。


おそらく、桜井審議委員にしても今回の野口教授にしても、過去の共著などを見ると、浜田宏一氏の流れを汲み、その繋がりで選ばれたんじゃないかと思われる。


もちろん全てを博士号の学者に置き換えればいいという話ではない。FOMCのボードメンバーも大学教授という人たちだけでなく、地区連銀のスタッフ上がりという現場経験がある人も多い。金融政策という、実体経済に与える政策を考える以上、実務経験がある人の存在は欠かせない。これは、大学院に行っていた時に、アカデミック一筋の教授と会話していて感じた部分でもある。実体経済に対する知識は、そこに身を投じている人の方が明らかに上だ。そのため、バランスは大事である、ということは言っておきたい。


それを踏まえた上で、そろそろ、マトモな金融政策するためにも、お友達による選択より、本当に優秀な人材を選ぶことが大事なんじゃないかと思いますよ、ねえ


2023年に任期が切れる黒田総裁の後任が今から待ち遠しいよ!


では、また


p.s.
①米国の修士課程と博士課程は全く別の課程だろと突っ込まれそうだけど、まあそれは承知の上なのでご勘弁を

②審議委員には専属スタッフがつくと書きましたが、政策決定会合で反対票を投じると、スタッフが手伝ってくれなくなるそう。かわいそうw